IR推進法により、カジノの誕生は秒読み段階に入りました。
日本政府は、カジノの誕生を外国人観光客(インバウンド客)の倍増を目標に掲げています。
期待されるのは、カジノがもたらす国や地域への経済効果ですが、カジノは日本経済にどれくらいの影響を与えることになるのでしょうか。
この記事では、諸外国の事情や実績も踏まえながら、カジノ誕生後の日本にどんな経済効果が生まれるのかに迫ります。
懸念されるポイントについても整理しながら、実際にはどれくらいの利益が生まれることになるのかチェックしましょう。
目次
カジノによる経済効果を受けやすい業種

カジノ開業による経済効果は、さまざまな業種に及びます。
有名なコンサルティング会社のひとつ「デロイトトーマツ」では、IRビジネスグループを立ち上げて関連企業の支援に乗り出すなど、具体的な動きも見せている状況です。
まずは、カジノによる経済効果を受けやすい業種を紹介します。
不動産・建設業
カジノを含む統合型リゾート施設の建設には、大規模な工事が必要です。
ホテルやレストラン、劇場などを含めたすべてがIR施設なので、土木、建設工事を請け負う不動産・建設業者には、数千億円単位の発注が舞い込むでしょう。
参考までに、シンガポールのマリーナ・ベイ・サンズの建設費は、4,870億円です。
宿泊施設を完成させるためには、各種ライフラインの開通も必須です。
電気やガス、水道、電話といった事業に関しては、工事に必要な初期投資の費用だけではなく、毎月継続的な経済効果がもたらされることになります。
日本のIR開発・IR誘致は、そもそも外国人観光客に向けて行われるものなので、都市部や空港からのアクセスが悪い候補地には、インフラの整備が必要になります。
道路を拡張したり、鉄道を開通・増便したりするにあたり、公共事業にも投資が行われるはずです。
通信・ソフトウェア関連業
IoTを活用したスマートシティ化において、通信・ソフトウェア関連業の活躍が不可欠です。
ICT技術は、マーケティング活動においても有効なツールになり、さらに警備体制の拡充にも、ITシステムが導入されます。
たとえば、カジノへの入場規制を正確に実施することを目的に、政府は顔認証システムの採用を検討中です。
カジノ関連業
カジノ運営に必要不可欠なディーラーの雇用や、ホテルやレストラン、商業施設といったIR施設の中で働くスタッフの雇用が増加することも確実です。
バスによる送迎などを行う場合には運転手が、タクシーの利用客が増える場合にもドライバーが活躍する機会が増えます。
また、金融業者も好影響を受けることになるでしょう。
IR事業者への資金貸付のほか、銀行への入出金が増加することにより、手数料収入の増加が見込まれています。
サービス業
IRによる雇用促進の中で、とくにメリットが出やすいのが、サービス業です。
ホテルの中だけで見ても、清掃やクリーニングは外注の業者を入れる可能性が高いですし、数千人規模の従業員と顧客を連日収容する施設であるだけに、医療サービスの充実も必須になります。
海外のカジノを想像するとわかりやすいですが、ショーなどのエンターテインメントを開催するために、イベント業者が動員されたり、タレントが起用されたりする機会も劇的に増えるでしょう。
花火などを使った演出をするにあたっては、関連業者の収益も増加することになります。
カジノは日本にどのような経済効果をもたらすのか
IR誘致とカジノ開業によって、とくに恩恵を受けられる業種は上記でご紹介したとおりです。
それでは、カジノは日本に対して、具体的にどの程度の経済効果をもたらすのでしょうか。
経団連など、3つの団体が試算結果を公表しているため、これをベースに考えていきましょう。
経団連による試算結果
経団連(日本経済団体連合会)では、敷地面積45万平方メートルのIR施設が誕生することを想定して、経済効果の試算を行っています。
なお、ここには、屋内展示場、会費室、2,800室のホテル、ショッピングセンターが作られるという前提です。
この条件でフラッグシップ型大規模MICE施設を1箇所設置した場合、建設による経済波及効果は約9,300億円、運営による経済波及効果は年間約5,800億円と結論付けられています。
予定通り3箇所にIR誘致を行った場合、建設による経済効果だけで、約2兆8,000億円に上ります。
みずほ総合研究所による試算結果
みずほ総合研究所では、東京にIRが設置されることを仮定した経済効果の試算を行っています。
前提条件は、「マリーナ・ベイ・サンズとリゾート・ワールド・セントーサを合計した規模」という大きなものであり、IR建設による直接効果は、約8,053億円という試算結果です。
IR運営による経済波及効果については、年間で約2兆9,000億円と見込んでいます。
これは、2009年に行われた佐和・田口両氏による「カジノ開設の経済効果」から引用した数字であり、経団連による資産と比較して、非常に大きな数字となっています。
大和総研による試算結果
大和総研では、北海道・横浜・大阪の3箇所にIRが設置されることを前提に試算を行っています。
横浜と大阪にはマリーナ・ベイ・サンズと同規模の施設が、北海道にはリゾート・ワールド・セントーサと同規模の施設ができると仮定した場合、IR建設の経済効果は、約5兆500億円といいます。
IR運営による経済波及効果は、第1次間接効果と第2次間接効果を合わせて、年間約1兆9,800億円と、こちらも高い試算結果です。
3つの団体の試算結果には大きな差がありますが、みずほ総合研究所と大和総研の試算結果からは、とくに高い経済効果を期待できます。
カジノが諸外国にもたらした経済効果の例

すでにIR誘致を行い、カジノ開業を果たしている諸外国には、どのような経済効果が生まれているのでしょうか。
日本がとくにモデルとして採用しているシンガポールのほか、隣国である韓国の実情はどうなっているのか、具体的な数字も交えながらご紹介します。
シンガポールが得られた経済効果
シンガポールでは、「マリーナ・ベイ・サンズ」と「リゾート・ワールド・セントーサ」という2つのIR施設を、民間投資によって誕生させています。
マリーナ・ベイ・サンズの建設費用は約4,870億円、リゾート・ワールド・セントーサの建設費用は約5,220億円で、合わせて約1兆円の経済効果が生まれています。
シンガポールで特筆すべきなのは、カジノ誕生を機に、急激に外国人観光客を増やしたことです。
IR開業からわずか4年で国全体の観光客数が6割増え、観光収入に至っては9割も増加しています。
日本政府による「訪日外国人数年間4,000万人」という目標も、この数値を参考に決められました。
シンガポールでは、2016年にはギャンブルにかかる税収として、約2,140億円の確保にも成功しています。
日本では、カジノによる税収はIR誘致先の自治体と折半する方針なので、この収益を自治体が有効活用すれば、より経済活動が活発で魅力的な都市に進化させることもできるはずです。
韓国が得られた経済効果
シンガポールの華々しい成功の裏で、カジノによる経済効果がないとされているのが、韓国です。
韓国では、2000年に誕生した「江原ランド」以外の16施設には、自国民が入場することができません。
つまり、韓国のカジノは、ほぼ外国人に向けて作られたものということになります。
しかし、実情は、韓国政府の思惑とはかけ離れています。
入場者の99%が自国民という江原ランドの売上が、ほかの16施設全体の売上を上回っているのです。
その結果、江原ランドの周辺には、ギャンブル依存症に陥った自国民が集まっているとのネガティブな声も聞こえてきます。
日刊紙「ハンギョレ」は、韓国を訪れる外国人観光客は約13万7,800円をつかうものの、観光客がカジノでつかうお金は、4万6,100円に過ぎないというデータを掲載しています。
また、カジノを訪れた外国人観光客は、全体の22.2%に過ぎないとも分析しているのです。
カジノによる経済効果は継続しないとの声も
セントメリー大学のパトリック・ピアース教授は、カジノに関する経済効果につい、て「多くは建設中の部分にある」と語っています。
ホテルなどのIR施設を建設する際には経済効果が発生するものの、運営による収入は、さほど見込めないというのです。
たとえばアメリカのハリウッド・パーク・カジノは、年間で1,000万ドルの納税を期待されてオープンしましたが、現在は多額の負債を抱える結果に陥っています。
税収をサポートするどころか、むしろ市税を圧迫する存在にまで成り下がった事例として考慮すべきでしょう。
また、カジノが設置された地域では「犯罪発生率が高くなった」「DVなど家庭内の問題が増えた」「大気汚染やゴミが増加した」などの社会的コストが、代償として発生するとも指摘されています。
いずれも、軽視できない問題として捉えるべきであることは、間違いありません。
ただし、先ほどご紹介した日本国内3団体による試算結果は、これらのマイナス作用も計算に含んだ上で導き出されたものです。
日本政府は依存症や治安悪化を防ぐ対策にも乗り出しており、諸外国よりも厳しい規制をかけるため、これらの失敗を繰り返すことはないようにも感じます。
まとめ
日本にカジノが誕生することにより、建設業からサービス業まで、幅広い業種に経済効果が及ぶことになります。
運営開始後の経済効果については、国内の3段階が試算結果を公表しており、その金額は約5,800億円~2兆9,000億円と、機関によってバラつきが見られました。
一方で、韓国のように、外国人がもたらす経済効果がほぼない、 という状況に追い込まれている事例も確認できます。
社会的コストの代償も無視できませんが、日本政府はギャンブル依存症や治安維持に他国以上の対策を施しており、過剰な心配をする必要はなさそうです。
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